介護が始まると、自然と「この人が中心」という人が決まります。ケアマネジャーとして担当したご家族は、私が関わり始めた時点で、すでにキーパーソンが決まっていました。決まっていないご家族は、ひとつもありませんでした。そして不思議なほど、揉めているご家族もありませんでした。——でも、それは本当に「うまくいっている」ということなのでしょうか。
介護のキーパーソンとは
キーパーソンとは、ご本人に代わって介護の中心を担う方のことです。具体的には、こんな役割があります。
- ケアマネジャーや医療機関からの連絡窓口
- 介護サービスをどうするかの判断
- お金に関すること
- 入院など、緊急時の対応
私が見てきたキーパーソンの方々は、ご本人の代わりに、これらすべての責任を担っておられました。
ひとつ、知っておいていただきたいことがあります。キーパーソンは、法律で定められた立場ではありません。成年後見人のような法的な権限や義務があるわけではなく、介護や医療の現場で自然に使われるようになった呼び方です。
キーパーソンは、たいてい「もう決まって」いる
「どうやって決めればいいですか」と聞かれることがあります。でも正直に言うと、私が担当した時点で、すでに決まっていました。
話し合って決めたというより、同居している方、近くにいる方が、自然とそうなっていたという印象です。
ただ、ご家族の人数が多いと、話がまとまらないことがあります。そういう時は、キーパーソンの方も大変そうだと感じました。
身寄りがない、折り合いが悪い場合はどうするのか
ご家族がいない方、いても関係が難しい方もおられます。
私が担当した中には、身寄りが遠方に住むごきょうだい1人だけで、しかも折り合いが悪く、法定後見制度の保佐人をつけておられる方がいました。
成年後見制度は、判断能力が十分でない方の権利を守るための制度です。ご本人の状態に応じて、3つの類型に分かれています。
| 補助 | 重要な手続・契約の中で、ひとりで決めることに心配がある方 |
|---|---|
| 保佐 | 重要な手続・契約などを、ひとりで決めることが心配な方 |
| 後見 | 多くの手続・契約などを、ひとりで決めることがむずかしい方 |
ご家族に頼れない場合でも、制度がご本人を守ってくれます。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。
揉めないのは、仲が良いからではないのかもしれない
ここからが、いちばん書きたいことです。
冒頭で「揉めているご家族はいなかった」と書きました。でも、その理由を考えると、少し複雑な気持ちになります。
他のごきょうだいは、思っていることがあっても、強く言えないのです。任せている以上、意見を言いすぎると「じゃあ、あなたがやって」となってしまう。だから、言えない。
そして、キーパーソンの方も、それで納得しておられる。——私が見てきたのは、そういう状態でした。
忘れられない場面があります。
キーパーソンは次女様でした。ある時、長女様が施設を訪問されたので、私は最近のご様子と、必要な物をお伝えしました。すると長女様は、こう言われたのです。
妹に全て任せていますので、妹の方に伝えてください
突き放されたのではありません。むしろ逆でした。妹さんに、とても気を遣っておられるご様子だったのです。
勝手に口を出しては悪い。任せている以上、立ち入ってはいけない。——そんな遠慮が、伝わってきました。
穏やかに見えるご家族の中にも、こうした静かな気遣いと、越えられない線があるのだと思います。

我が家も、そうでした
次男である夫が、キーパーソンになりました。義母と同居し、義父のことも中心となって動き、亡くなった後の法律的なことも、夫と私でしました。
元気な頃から、夫は親に頼まれていたようです。
突然の同居には、正直、驚きました。
でも義母には、子どもが小さい頃に特にお世話になり、助けてもらったこともあります。だから、できることはしようと思いました。
幸いだったのは、介護の仕事に携わってきたことです。何の知識もなければ、糖尿病と認知症のある義母との生活は、難しかったと思います。少しでも恩返しができて、良かったと思っています。
長男は四国に何年も出張中でした。長男のお嫁さんは、ご自身の親御さんの介護もありました。私たちに任せることを、申し訳なく思っておられるのが伝わってきました。
誰も悪くない。それぞれに、それぞれの事情があるだけなのです。

「なぜ私たちばかり」と思っているあなたへ
私も、その気持ちが全くなかったわけではありません。
でも、覚悟が決まったら、悔いを残さないように介護していくことが大切だと思っています。あの時ああしていれば、という後悔は、あとから静かに効いてくるからです。
ただ、それでも言いたいことがあります。
キーパーソンばかりが背負う必要はありません。役割を分担して、しんどさを分散させることも、ひとつの方法です。
すべてを一人で抱えなくても、いいのです。
- 介護そのものから一度離れて休むなら → ショートステイという方法
- 仕事との両立に悩んでいるなら → 使える制度と、私の後悔
- 誰に相談すればいいか分からないなら → 地域包括支援センターへ
あなたが倒れてしまったら、その介護は続きません。どうか、ご自分のことも大切にしてください。
